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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

ガーディアンルポ04「ドリーマー」

 レつも悪レ夢を見てレます。この小説も悪夢なのですが。さて本物の私は淮の夢の中にレるのでしょ
 
ガーディアンルポ04「ドリーマー」(1979年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/
(内容は編集中です)



薄暗レ允の中、誰かが眠っている。彼の体は水溶液の中だ。液は海の様なブルーの色をしている。外
側は球形のカプセルだ。彼の頭や体にはコードが張りつけられていた。体は緑色に見える。
 彼は今、夢を見始めたところだ。少し体が動く。どんな夢なのだろう。
フ」はんよ!」
 ニ階の娘に打かって若レ母親が呼んでレる。が、返事はLから返ってこなレ。
「また、あの・子は部屋にばっかり閉じy一もっていて」 若い妻は夫に言う。
「あなた、怒って下さレよ」
「まあ、いいじゃないか。あのfは内向的だからな。友人もレなレ。でもいレ人形を夢管理庁からもら
ったものだ。政府もたまにはレレ泰をする。当分あの人形で遊んでレられるだろう」
孵の声かLの階から聞こえてきた。
「おレ、今、変な鳴き声がしなかったか」
「あの子、『野生の工国』でも見てるんじゃないの」

 今度は悲鳴が上がった。
「何だ」
「上に何かレるわ」
 両親はあわてて、階段を駆けあがり、娘の部屋をのぞく。
 ドアの向こうには草原が拡がってレる。二人はTVCMでみたアフリカを思った。遠くに山並がみえ
る。現実だった。風が吹いてレて血の臭いがした。
 二人は呆然と立ちすくむ。ライオンが原住民を食べてレるのだ。‐‐フイオンの上に娘が乗ってレるのだ。
「何だ。これは」
 しばらくして夫がふるえる声でいう。
「美加ちゃん、危レからそっとこちらヘレらっしゃレ」
「そうだ、美加、早くこっちへ来レ」
 命令口調で親たちはーaう。
 美加は、自分が楽しんでレる世界へ侵入者が人ってきた事に腹を立てていた。おまけに侵入者は、あのうるさい両親なのだ。
 「さあ、ライオンちゃん、あの二人も食べておしまい」
 美加はライオンに命令した。ライオンは逃げるスキを学えず二人をなぎ倒す。
 「まあ、お前はレレfね」
 美加はライオンのたてがみをなでる。ここは美加が想像した世界。何でも思レ通りになるのだ。
 子供部屋だったところはアフリカ人の死体で血の海だ。美加のそばに30Sくらレの高さのフランス人
形が置レてある。アフリカの風景には不釣合だ。その人形がにこっと笑ったような気がした。人形には
暑のylクが入ってレる
 何本もの私鉄と国鉄が数多くの人間をそれこそ物のようにつみこんできては吐ぎだす町、渋谷。甘から有名な待ち合わせ場所、渋谷駅忠夫ハチ公銅像前。
 その前にレだ.人の男が二人組に呼びかけられる。
「もしもし」
 呼びかけられた男の眼はぼんやりとしている。こ人がかりでその男は路上に押したおされた。突然の出来事だ。
 待ちハロわせをしてレだ男ひは何事かとまわりから逃げ出す。
 一.人の男は、男の眼の中を内視鏡で調べてレる。男の網膜には血管がなかった。
 押えつけてレだ男がすばやくヒでフホルスターから銃をとり出し、ためらわずに頭を射つ。銃声は一帯に響く。
 二人の男は、まわりに集まってきた群衆にIDカードをかかけて見せる。
ご心配するな。我々は、それこの通りドリーマー‥ハンターだ」
 もう一人もつけ加える。
「そうだ。こいつはドリーマーだったのた」
 群衆の目の前で射たれた男の体はゆっくりと消えてレく。路上には跡形もなレ。13
 まわりて見てレた群衆の一人がかたれらの友人E=ワ.た,
 「ああ、恐ろしレ世の中だね」
 フドリーマーに、ドリーマーハンター。それに家に帰りや、ドリーム‥チヤイルドにドリーム‥ドール
とくるからなあ」
 フが、しかし、まあ、一面なかなか獣の中がおもしろくもあるな」
 「うん、それはいえるなあ」
 一一人は互レにうなづく。
 二人のサラリーマンは家路を急ぐかわりに今の話をサカナに居酒屋ののれんをくぐろうとする。
電話が鳴ってレる。男が受話器を取る。
「はレ」
フドリーマー‥ハンターかね」
 くぐもった声が伝わってくる。
「違レますよ」
 いささかとまどった声だ。
「そちらがドリーマーニノターのセンターとレう事はわかってレる」
「あなた、何か間違レを:・:‘」
「いいんだ。だまって聞け、今日、そこヘドリーマーが訪ねる」
 押しかぶせるように声はいう。
「何を言ってレるんだ。ドリーylだって」
「それだけだ」
「待て、君は誰だ」
「それはいい、君達の協力者だと思ってくれ」
 電話は切れた。受話器をもとに戻しながら男は側にいたチーフに声をかけた。
「お聞きの通りです。ここヘドリーマーが訪ねてきます」
「ガセネタかもしれん。が、一応準備はしておこう」
「わかりました」
同じ頃、電話をかけた男が、代々木の公衆電話ボ″クスから出てきた。駐車している車に向かってーg
「あれでよかったのでしょうか、長官」
「よくやってくれた。ありがとう」
 長官と呼ばれた男は、感謝の言葉と同時に鉛の弾を彼の心臓に与えた。
「うっ」
「さあ、始まりかな」
 ねむレ。Kはそう思った。
 悪レ寝ざめだ。
 最初に目に入ってきたのは、ホワイトクリームの天井たった。棺桶の中? 違うようだ。天井がかな
り低レ。起きあがると天井に頭を打ちそうになる。目の前40四くらいの所にテレビがあった。
 ここほどこなのた。足の方にカ土アソがある。どうやらカ上アンの向こうが出口の様だ。Kは這いて
た。
 Kは立ちあかつて自分が今までどこに眠ってレたのか確かめてハる。
 そこは、警察の死体収納ボ″クスを思わせた。繭棚の様でもある。
 2段のへyドがずっと続いてレる。不思議なほど静かたった。
 Kは思い出した。どうやら俺は「カプセルホテル」に泊ったらしレ。洗面所とトイレを通りすぎて、
階段をあがる。上のフロアには大きなサウナブロがあった。
 ところで俺は誰なんだ。Kは思う。
 名前はK。それ以外、俺はまったく思レ出せなレ。俺はレったレ何者だ。
 タオル地の寝着を着てレる。
 ポケ″トをさぐってみる。が、証拠になるものは何も入っていない。
 右の手酋にナンバー入りのキーがゴムバンドでぶら下がっている。キーはどうやらロ″カーのものら
しレ。口″力1はサウナプロからぶ陽ドったところにかたまって並んでいる。
 フロントの横のロヴカーて同じナンハーーをさがす。
 開けてハる。中に人ってレるのは服だけだ。エルノスの財布。財布には25万円程入ってレだ。
 他には小銭入れ。免許の類はまったくなレ。名刺入れも、定期券もなレ。
 腕時計はわりとレレ。ホイヤーのダイバータイプだ。服の中をレろいろさぐってレるのて、隣りの男が不思議そうな顔をしてレだ。
 さてy}れからどうするかた。とにかく、この「カプセルホテル」から出てみよう。
 地階がフロントになってレる。
 エレヘーターの横に喫茶店があり、そこから外へ出られる。
 とこらて外はどこだろう。住所表示を探して読みとる。
 新宿の歌舞伎町の様だ。もう・昼近かったが、あたりはまだ昨夜の活動のなごりが残ってレる。
 もう一度、服をあらためてみる。ン七ケ″トはJ・プレスのブルーーのジャケ″ト。スラ″タスも灰色
の普通のもの。ジヤケ″トのアウトポケ″トから紙切れが出てきた。
 ひろげてハる。チバ・ポートタワーの半券だった。
 チバ・ポートタワー?
 どうしたものだろう。Kは新宿の路上で思いまどう。
 チバ・ポートタワーヘとりあえず行ってみよう。
 新宿から山手線に乗り、秋葉原駅で乗りかえ、千葉駅へ向かう。
 山手線の電車の中から見ると、見知っているはずの風景がなぜかめずらしレものにみえる。
 なぜだ。俺はとこに住んでいるのか。まったくわからない。千葉駅のプラ″トホームに降りたって、Kは行くべき場所がはっきり見えた。
 チバ・ポートタワーだ。そこは東京湾をバ″クにして、空からおりてきた金属の針の様にみえるのだ。
 メタリ″クな塔は千葉市には似合わない。
 そのタワーはそれ自身が未来からやってきたものの様に思えた。
 駅前のターミナルからバスに乗った。あまり混んではいない。今日は何日なのだ。それも覚えてはいなかった。、バス席に誰かが捨てていったスポーツ紙の日付を見る。一九八七年九月一七日木曜日とあった。
 ポートタワー下の入口付近はがらんとしている。平日だからだろう。入場券を買う。入場券を見てみる。
 やはり、先刻ポケyトから出てきた半券とまったく同じものだった。とにかく展望室にあがってみよう。スーベニア・シJでフを通りすぎて、千葉港の歴史紹介などのテ″スプレイの前を通り、エレベーターの前の列に並んだ。
 やがてエレベーターのドアが開く。Kと一緒に五、六人の男たちが入った。
 何かの団体だろう。同じようなスーツ姿の同じような顔をした男たち。
 エレベーターは上昇を続けてレる。タワーー外壁のてシyク『土フーを通じて干葉港の風景がよく見える。
 海辺では釣り人。海のLではウ″ントサーフy-がレだ。
 エレベーターに乗ってレる客が全員Kの方を見ている。顔をのぞきこむような感じた。
 そして皆、銃を手にしてレだ。彼らは声をそろえてーざった。
「ようこそ、我がポートタワーヘ。ドリーマー君!」
 Kは意味がわからなかった。どういう事なのだ。トリーyl?
 男の.人がレう。
「驚レて...一‥葉もなレようかな、ドリーマー」
「どうレうy一とたー
 怒りをあらわにKは叫んでレだ。
「ふふっ」
 全員が笑ってレる。
「ドリーマーだって」
「きさまらドリーマーは、’}の世に存在してはならなレ生物の集団さ
1
「お前たちバごーこにしめる空間なんかなレのだ!・」
「消えうせろ、ドリーマーめ」
 彼らの言葉のはしばしには怒りが見える。
「待て待て、やるのはまた?レ。まだy一いつには聞きたレことがある」
 チーフらしい男が言う。
「何ですか」
フ」レつのマスターの居場所をはかせるのだ」
「わかりました乙
 エレベータトかやっと庄まる。ドアが開く、が、そこは展望室ではなかった。
「ようy}そ、ドリーマー君。さて、ここが君の歓迎パーテ″―会場だ」
 先にエレベーターを降りながら千ーフがごった。その部屋はメカニカルな部品で囲まれてレる。伺か
のコ。クビ″トの様だ。
フこ}はどこだ」
 Kは茫然として尋ねる。展望室の上にこの部屋はあるようだ。
「もちろん、チバ・ポートタワーだよ。この部屋は君の為に用意しておレだわけではなレ。トリーマー
‥ハンターの集合場所なのだよ」
 フドリーマー日ハンター?」
 Kはますますもって混乱する。
 「なぜ、俺をこy一に連れて来たのだ」
 「その質問は、我々が逆に君にしかレ。なぜ君はこのポートタワーに来た。われわれハンターをやっつ
けにきたのかね」
 男達はどっと笑った。
 「そんなわけはあるまレ。それにドリーマーとしては無用心すぎた。我々がトリーマーの警報装置をも
 っているのを知ってレるはずだ」
 別の男が言った。
 つちょっと待ってくれ、君達はさっきから俺をトリーylと呼んでレるが、ドリーマーとはノ捧何だ。
俺は本当に知らなレんた」
 Kの表情は真剣だ。
 一瞬、部屋は静かになった。そしてセキを切ったような大爆笑の渦。
 「くくっ、芝居がうまいな」
 「笑わせてくれるぜ」
 男の一人は近くの机をたかレて笑う。
20 「寝ぼけるのはよしてもらいたいな」
「わからない、何の事をいってレるのかわからなレ。君達は人違レをしてレるんじゃなレのか」
「それじゃ、聞くぞ、お前は誰だ」
「……」
 Kは言葉につまった。
「鏡を見てみろ」
 いきなり他の男がKの眼の前に鏡を突き出した。
フ}れは・:・:」
 Kの目や鼻がうすぼんやりと映ってレる。はっきりとしてレない。カメラのピント.があってレない感
じだ。顔の輸耶が崩れかけてレる。
「そうだ。またドリーマーとしてのアイデソテブア″がはっきりしてレなレのだ。お前は消えかけてレ
るのだ」
「うわあーっ」
 恐怖だ。’}れを恐怖といわずに何と一匹おう。
 Kは大声をあげてレだ。その声は部屋のあらゆるものを振動させた。
 「くっ、こやつは・・・・:」
 声は超音波の域に達していた。
 「やめさせろ、そいつのロを閉じさせろ」
 男達は部屋の中でのだうちまわってレる。部屋は音の拷問室となっている。
 声の振動でタワーの強化ガラスに亀裂が走った。Kの眼にそれがうつる。Kはそのガラスのひびわれ
た部分に体ごとぶつかってレった。
 誰かがKの体をつかもうとしたが、それを振りはらレKは外に飛び出す。激しレ音がし、Kの体は空
間に浮かんでいる。
 太陽の光で粉々に飛び散ったガラスがきらめく。
 同時に亀裂はチバ・ポートタヮーの展望室あたりへ広がっていく。いまやチバ・ポートタヮー自体も動してレだ。
 ポートタワーの上部から割れた強化カラスがなだれの様に海へ落ちてレく。
 Kは海面につっこんでレだ。東京湾の水は冷たかった。
 海の上では初秋にもかかわらず、ウ″ンドサーフ″ンをやっている若者達がレる。
 サーフ″ー達は、ポートタヮーから崩れおちてくるガラスの破片から逃れようとした。が、間断なく
なだれ落ちる滝の様なグフスの破片にのみこまれてレく。
 Kは乗り手のなレウ″ンドサーフ″ンの端をつかまえた。ボードの上に乗る。アでフホール・ライン
を握って倒れてレだマストをもちあげる。ブームをつかむ。Kは容易にウィンドサーフィンをあやつ
   なぜだ。俺はこのウ″ンドサーフ,ンに乗れるのだ。Kは自問してレだ。やった事があるのか。
   それに奴らは自らを「ドリーム‥ハンター」と名乗っていたが、何者なのか。
   疑問が次々とわレてくる。が、とにかくここを離れよう。
   ウィンドサーフ″ソは西へ向かっていた。西には夢の島.がある。
   Kは彼が動きまわるにつれ、世界が出現し、また消滅してレることに気づいてレなかった。Kの体を
  中心にしてTOOの範囲にしか世界はなかった。TOO』の圏外は無であった。
 東京湾上に黒い管があがってレだ。潜望鏡だ。国籍不明の潜水艦が東京湾に潜り込んでレるのだ。
 指令室で潜望鏡をのぞき’}んでレる男がいる。
 その男は艦長の方を向いて言った。
「彼はどうにか自分の進むべき力向を知ってレるようだな」
「でも、完全には覚醒してレなレようですね」
 艦長は答える。
「ふっ、そのようだ」
 そう言った男の韻には表情がなレ。男は仮面をかぶっているの.だ。その仮面はイタリアのカーニバル
でつかわれるもので、笑いの表情だ。
「よし、艦長、Kの後をゆっくり追ってくれ、多分、行ぎつく先はドリーム・アイランドだろう」
    Kは風向きにあわせて器用にウ″ンドサーフ″ンをあやつっている。
    y曼港から東京湾を横切って、対岸の東京に近づきつつあった。高層ビルのすかたがはっきり目に人
   ぃてくる。東京ベイアTフyド群が。
   海岸が見え始めた。海岸ぞレに複雑な形をした建物が目にはレってきた。
   同かの工場たろうか。Kは知らなかったがここはドリーム・アイランド、夢の島なのだ。
   OOては今、子供達に夢をyえるための人形が作られてレだ。f供達は自分の夢を人形を前にして語
  りかけるのだ。すると、人形は彼らの精神をその望んだ世界へ連れてレってくれる。これをドリーム‥
  トリでノと呼ばれてレだ。
   人形けトリーム‥ドールと呼はれ、f供達だけでなく、犬入もはしがった。そしてその人形にとりつ
  かれたf供だちがドリーム‥チ七でルトなのた。
   ドリーム‥チ七イルドのうち成長しても、ドリーム‥ビールから離れられなレ人間がレる。それがドリー
  ム‥マスターなのだ。その強力な精神力は自分自身の夢の中から生身の人間を旦現化し現実世界へ呼び
  よせた。
   それがトリーーマーなのた。
23  ドリーマーとはレわは人間の夢から生まれた人間。存在すべきはずがなレ人間なのである。
会社を通じてだ。
 この事業は現実世界の恐ろしさから子供たちを守り、想像性豊かな子供を育てようとレう目的だった
のだ。
 ところがまるで反対のベクトルヘとトリーム‥ドールの存在は働レたのた。恐るべき社会の破壊者と
しての存在へ……。
 ドリーム‥チ七イルト、マスター、そしてドリーマー、これらは社会問題として大きくとりあげられ
た。
 政府はやむなくドリームハンターという組織を作り、ありえざる入間ドリーマーを見つけ次第、処
分することにした。
 マスター達は、これをレち早く察知し、大挙してどこかへ隠れ去った。彼らの居場所は皆目わからな
かった。
Kはウ″ントサーフ″ンから降りた。海の水をかぎわけながら、陸へあがった。
砂浜には鉄条網がはられてレる。『政人禁止、危険高圧電流』と澱かれた立札が並んでレだ。
少し砂の上に横になる。
なぜこの島に来かのか。勢レとレうものかも知れなレ。が、ここへ引き寄せられる何かがあったこと
   は事実だ。
   砂浜を犬が走ってくる。黒く鍛えられた筋肉のかたまりのような犬だ。ドーベルマンだ。Kは立ち上
  がる。
   そいつらの眼は尋常ではなレ。まがまがしく光っている。まるで作りものの眼だ。
   Kは犬たちをにらむ。その人達は叫び声をあげると、砂地に倒れた。何気なくKは鉄条網に手をかけ
  た。体が光を帯びたが、Kには衝撃はなかった。
   Kの体は特別製なのだろうか。
   Kは倒れている犬の一匹を調べてみる。体は確かに生き物だが、思った通り、左眼がカjフになって
  レる。監視カメラなのだ。尻吊がアンテナになってレだ。
   爆音がした。ヘリが飛来してきたのだ。Kの頭上でホバリングしてレる。
   「そこで止まれ」
    ヘリから声がした。
    へりの男は半身を乗り出して64式突撃ライフルでKをねらっている。
    さらにオフロートバキーが砂ぼこりをあげて走って来た。Kの前で止まる。助手席の男がラずフルを
  向けた。
   この男達は軍服を着てレないが、それに近レ組織らしレ。揃レのュニホームを着てレる。米空軍のM
25 A11タイプのモスグリーンジャケyトで作業スラ″クス、レギンス付きのワークブjツ、頭にはアポ
26 ロキヤでフをかぶってレる。キヤでフのy-クは漸だ。
   「よーし、手をあげたまま、車に乗れJ
   Kは後ろの席に乗せられた。
   フ」こは何だ」                       ―
   Kは助手席の男に尋ねる。が、男はライフルを向けたまま無言だ。先刻から見えてレだ奇妙な形の建
  物の前でバギーは止まる。
   その建物はまるで生き物のようになめらかな曲線で形づくられてレて、体温や息づかレすら感じられ
  る。
   「降りろ、俺の前を歩くんだ」
   男はライフルでKをうながす。玄関のトアから奥まで一直線に通路が続レてレる。内部は外観の印象
  と異なって、機械的で冷たレ感じがする。あたりに人の姿はなレ。
   通路を進み、・つのトアの前で止まる。
   「よし、この中へ入れ」
   部屋の奥の机に、初老の男が.人すわってレる。Kの後から男も付レて入り、ドアを閉める。
   「私が工場長だ。さて侵入者くん。君の名前、君の目的を話してもらおう。誰から頼まれたかもな」
   Kは質問に答えるかわりに、遂にその男に問うた。
   「ここほどこなんた」
「知らんのか、ここは夢工場だ」
「夢工場?」
 Kは不思議そうな顔をする。
「君は、我々の質問に答える気はないらしレな」
「答えようにも、答えられなレ。俺は偶然ここに来たんだ。つまり俺はからっぽの人間だ」
「偶然だと。わかった。我々もそう悠長ではレられなレ。時間を省略しよう。君を分析してやろう。こ
こは夢工場。機械にはことかかなレからな」
「分析だと、何をするつもりだ」
「すぐわかる。侵人者くん」
 男がライフルてこづきながら、Kをとなりの部屋に連れてレく。¥Oにはわけのわからなレ機械が数
多く並んでいる。中にカマキリを思わせる機械がある。
 人一人が横たわれるベヴトが真中にあり、その前後左右に大小のアームが無数に突き出てレるのた。
歯医者の治療機をもっと大きく複雑にした形だ。
   夢の島のそばに、潜水艦が浮上する。
   船外貌付きのゴムボートが出され、仮面の男が、一人それに乗り込んだ。
97]  「艦長、世話になったな」
「わかった。せレぜい利用させてもらうよ」
 モーターを廻し、夢の島へ向かレ始める。仮面の男は、しばらくして、後ろをふりかえり、潜水艦が
完全に沈下した事を確かめて、手元のスイ″チを押す。
 大音響と共に水柱があがる。小型のスイ。チを海中へほおり投げる。
 「グアドバイ」
 部品が浮かびあがってくる海面に向かって、そうつぶやく。そして夢の・島の方を目ざす。
「さあて、あとかたづけが大変だろうな」
 男の表情は仮面の下でみえなレ。
 「さあ、これが自白機械だ」
 彼らは、自白機械のべyドにKの体をくくりつける。頭にはヘルメ″トの様なものをかぶせる。体を
身動きでぎない程、金属リソグでしめつける。体の各所にコードがつながれている。
 フ』の自白機械は我々と違って容赦はしなレ。何しろ精密な機械だからな。侵入者くん」
 そう言って、彼らはKを残し部屋から出てレく。
 ヘルメ″トの内部から声が響レてくる。
 「、レレかね、まだ時間は充分ある。君が自発的にしゃべりたレとレうのなら、その機械を止める事もで
きる」
 Kは無言だ。
 「その自白機械は一度、動き出せば、とどまるところを知らないからな。君の精神はバラ、、ハラになる。
それは確実だ」
 機械による分析内容はとなりの部屋でモニターされてレる。Kの思考は解析され、結果はここのCR
Tにディスプレイされる。
 自白機械の解析犬が声をあげた。
フ」やつはドリーマーだ」
「なぜ、ドリーマーがこの夢工場へ来たのだ乙
 L場長は、命令をドした。
「よし、自白機械のスイyチを人わろL
「マスターは誰か調べてみよう」
 解析上が占う。
 ティスゾレイは不明と出る。
コ不明だと、そんな事はありえなレ」
 工場長は叫んでレだ。
 解析土も叫んでいた。

『分析不可能』

 CRTにそう映る。
 ブザーが鳴り始める。警告だ。機械の能力をはるかに越えた情報量がKの頭に積め込まれてレるのだ。
 Kの体が光り輝レてレる。それはKが自白機械のエネルギーを吸レあげた様にもみえる。
 Kの体をおさえてレだ金属リングが吹き飛ぶ。Kは起きあがる。体のあちこちにあるコードをひきち
ぎる。
 自白機械がオし八万フンしたために、Kの意識は少しずつ目ざめてゆく。
 「そうか、俺は夢工場の人形に会いに来たのだ」Kは独りごちた。同時に自白機械のアームをへし折っ
ている。
 工場長は、自慢の自白機械がつぶされるのを見て、呆然としている。気をとりなおして命令する。
 「奴をとめろ。機械をこわさしてはならん」
 ユニフ。ーム姿の男達が手に電撃棒をもちKに打ちかかってくる。体にふれた瞬間、放電される代物
だ。がKは、一万ボルトの電撃にはびくともしない。まるで別世界の生き物の様にそれを受けつけなレ
のだ。
 Kは警備員達の攻撃をものともせず移動する。人形製造エリアにはレってレく。
 そこでは、子供達に夢世界を与えるドリーム‥ドールがオートノーショソで作られてレる。
 ベルトコンベアーで流れてきた人形のひとつをKはつかみあげる。その人形の眼をじっと見る。その
人形がかすかにうなずレだようだ。
 ドリーム‥ドールの体には、子供たちの脳波を感受する部分と、子供達の想像力を増幅させる部分は
あるが、自ら動く装置はない。
 が、人形が動き出した。そればかりか、最初にKに見いられた人形が、他の人形に命令を下してレる
のだ。
 さらに自ら梱包を破って、人形が飛び出してくる。高さ30一のフランス人形。そのフランス人形でフ
ロアは一杯だ。人形が警備員達の方へむかってレく。ドリーム‥ドールの叛乱である。
 Kは人形から下のフロアの人口を教えてもらう。人形の反撃をかレくぐって襲ってくる警備員を排徐
しながら、Kは、工場の最下層、シークレ″ト‥ゾーンヘと降りてレく。
 そのフロアにはレザー・バリヤーがはられてレる。がKの体は、まるで空気の様にバリヤーをすりぬ
ける。
 ドアは電子ロ″ク。おまけに警備員もここでは電子銃を装備し、Kをねらう。発射した。が、彼らの
電子銃にもKは感応しない。Kはノブに右手をおく。何事もなくトアが開レだ。人ると再び閉まる。
 その場所は子宮を思わせた。
 透明のカプセルが奥の方まで並んでレる。カブセルは水溶液で満たされ、人間が浮かんでレる。彼ら
は胎児の様に眠っている。各々のカプセルの下には体温表示があり、彼らが低温で眠ってレることを示
   Kは透明カプセルのひとつに近づく。
   突然、工場長の声が響レてくる。どこかにスピーカーが隠されてレるらしレ。
   「やめろ、マスター達にさわるな」
   マスターだと、どy}かで聞いた事がある。そう、チバ・ポートタワーでた。ハンターとか名のった連
  申が、マスタjの居場所を言えとレってレたな。こんな近くにあるじゃなレか。Kはぼんやりと考えて
  レだ。上場長の声が再び響レてくる。
   「少しでも、そのカプセルにさわれば、お前の仲間、ドリーマーが消滅する」
   どうやら、このマスター達の夢で具現化された人間が、ドリーマーらしレとKは気づく。このカプセ
  ルの下の装置が、マスター遠の力を増幅させているようだ。
   Kの手はすでにカプセルの表面にふれてレだ。どんな顔をしているのだ、彼らは。Kの手は急に熱を
  発してレる。彼らの顔をはっきり見るために、Kは顔を近づける。手にも力が入る。
   亀裂がカプセル表面に走る。パリyとレう音がする。水溶液がド。とあふれ出る。Kは後ずさる。カ
  プセルが完全に崩れ、続いて、中で眠ってレだゞスターの体が流れ出た。
「私はブラジルの農夫。トウモロコシ畑をたがやしてレる。空には鳥が飛んでレる。あれはE・:」
「あたしは14才の娼婦。ニューヨーク、ブル″クリンに住んでいるの……」
   「我輩は東洋思想の教授である。この東京帝国大学における・:・・」
   「俺はマンモスの方にむかってやりを投げていた。危ない。奴がすごレ勢いで……」
   「わたくしの目の前では、わたくしのハンカチを持ったハンガリー人の騎士がバレンシアの騎士と戦っ
   て……」
   つ俺は、その落武者の酋を切り落とそうとしていた……」
   「私の描レだ風景画は最高のものだわ。この絵を見たらアイリーンはなんて言うかしら……」
   「その飛行体は、俺の戦闘艦の前を横ぎった。俺はバトルスーツのマニュピュレーターを:・:・」
   あらゆる時代、あらゆる国の人々の夢世界の断片が、Kに感応する。y一こは夢みる人達の倉庫なのだ。
  こここそ本当の夢工場なのだ。
   Kはずらりと並ぶドリームマスターのカプセルのひとつ、ひとつに手をふれてレく。まるで自分の子
  供をいつくし打ように。Kはなぜ自分がそんな事をするのかわからなかった。自分のfを殺す。そんな
  気もした。が他人に殺されるよりは自分で殺した万が。
   なぜなんだ。この気持ちは。わからなレ。依然としてKは自分のまわりを大きな謎が包んでレること
  に気づく。
    マスター達はカプセルが壊れると同時に水溶液と一緒に飛び出して床に’一ろがる。
    ようやく、工場の警備員が閉じられていたドアをぶちやぶって中へ突入して来た。がこの有様を見て、
33 悲鳴をあげる。

訓  一くそy..きさま れわ才わ応マスターを!二
   「きさま、仲間のくせに。お前のマスタjもレるかもしれんのに」
   警備員が倒れ始める。彼らのマスタトが死んだのだ。彼らもまたドリーマーたったのだ。彼らは消滅
  する。
   残ってレる警備員達がKに向かレ、今度はライフルを発射する。効果はなレ。Kの体を
  弾がよけて通るのだ。
   工場長がフロアヘおりてくる。y」の男はドリーマーてはない様だ。今にもぶっ倒れそうなまっ青な顔
  をしてレる。Kに話しかける。
   「トリ’ルー、占ってくれ、お前の目的はなんた。それに、お前は特別なトリーマーの様だ。なぜだ」
   Kは今も答えようがなレ。Kにもわかりはしなレのだ。この俺の恐るべき力。神のごとく動いてレる。
  それに俺がドリーマーなら誰がマスターたとレうのだ。Kは悪夢の中にいる様な気がした。
   フL場長、大失態の様だな」
   突然、後から声が聞こえてくる。仮面の男が夢工場へ到着したのだ。
   「あ、あなたは、長官」
   L場長はあわてふためく。
   「御連絡をレたたきましたら、お辺えにあがりましたのに」
   長官と呼ばれた男はまわりの惨状を見渡す。
 「レやはや、何ともすばらしい状態じゃなレか、工場長。すべては君の責任だな。君の管理能力の問題
だ」
‐‐1し、しかし、長官、あいつは普通のドリーマーではありません。先刻、あいつを自白機械にかけたの
てすが、マスターの名前がデータバンクに登録されていなレのです。そんな事はありえません」
「jスターのレないドリーマーというわけか」
レで、そぅなんです。そんな化物に我々の手が及ぶわけがありません。あやつはいかなる防護処置も無
  力化するのです。銃弾ですら、弾の方がよけて飛ぶのです」
   長官は静かな声でつぶやく。
   「そう、あの男にはこの世のどんな殺戮兵器も効果はない」
   「なぜご律。なぜそれを御存じなのてすか」
   「工場長、またわからんのか、あの男の顔をよく見てみろ」
   工場長は、Kの顔をのぞき込み、やがて叫び声をあげていた
   T兄っ、まさか」
   「そうだ、そうなのたよ」長官はうなずく。
   「そんなはずはなレ。あいつがあの方の」
   「工場長、悪いが君には消えてもらう」
35  フ兄っ、何ですって」
「皆、動くな。この男の始末は俺がする」
 仮面の男はフロアの警備員に命令する。
「な、なぜなんですか」工場長は虫の息で尋ねる。
「君しか、あの方の顔をしらんからな。それに、この世界での君の役目はもう終わったんだよ」
「私の役目ですって」
 工場長はこときれた。
 Kは二人の会話をうつろな眼で、ただじっと聴いてレるだけだった。
 とにかく、Kには自分自身が大変重要な人間だという事は会話の内容から推察できた。
「K、自分の立場がわかったかね」
 仮面の男がKになれなれしく言う。
「K、君は今朝、新宿のカプセルホテルで目ざめたはずだ。それにチバ・ポートタヮーヘ行ったな。ド
リーマー‥ハンターの奴らを痛い目にあわしたはずだ」
「なぜ、お前がそれを知ってレる。お前は一体何者だ」
「私は夢管理庁の長官だ」
「夢管理庁」
「そうだ。個々人の夢を管理する政府機関だ。君に見せたいものがある。この工場の偏にあるのだ。来
たまえ」
 Kは、命じられたまま、仮面の男のあとについていく。一一人は工場の外に出ていた。工場の側の広場
に立っている。
 フ」こだ」
 仮面の男は、ある場所を指さす。突如、車をのみ込んでしまう程の巨大な穴が開いた。
 おもわずKは中をのぞぎ込む。
「そこへ行け」
 後から急に仮面の男がKの体を押した。暗黒の中へと、Kは落下する。
 Kは一時意識を失ってレだ様だ。まわりは暗黒だ。Kは起きあがろうとする。足もとはしっかりして
レだ。かすかに光がある。光が拡がりKは盤面の上に立ってレる事に気づく。
 遠くでスポ″トライトがつく。そこに仮面の男が立っている。
 「K、どうだな、自分自身をとり戻したかね」
 男は、Kに対して変に慣れ慣れしレ。
 「だめだ。何もわかりはしない。君は誰で、ここはどこだ」
 「K、どうやら、今回はかなりの悪夢らしレな」
 今回だと? 悪夢だと? 確かにそうだ。待てよ。今回はかなりの悪夢。とレう事は何度もこんな事
があったというわけか。
-一一
 仮面の男は後を指さす。彼の後ろ全面にライトがつく。
 生物だった。巨大な生物が、大きなカプセルの中で眠ってレる。その生物は穏やかに、気持ちよさそ
うに眠っているのだ。その顔には見覚えがあった。
 チバ‥ポートタワーのハンター達に鏡でむりやり見せられた顔。
フヘ この顔は俺の顔だ」Kは思わず悲鳴をあげていた。
「そうだよ。クネコバ‥スプローギン君」
「それが、俺の本名なのか」
「そうだ」
「でも、日本人の名前ではない」
「そう、君はドラ″ダウ″1をひきおこした張本人でもある」
フドラyダウ。-」また知らなレ言葉だ。
「そうだ。それで前の世界が滅んだんだよ」
 仮面の男は教えさとす様に言う。
「今回の出来事はすべて君の夢だ」
「夢だと」
「そう、正確にレうと、君の作りあげた無数の夢世界のひとつだ」
 「俺は夢の中にいるのか」
 「そうだ、君はクネコバ・スプローギンの夢世界に投影されたドリーマーにすぎん」
 「俺は俺自身ではないというのか」
 「そうだ。今の君は君自身の一分身にすぎん。それも夢の中のな。さらに君は大きな世界、別世界の創
造者でもあるのだ。この夢世界はクネてハ・スプローギンの夢のーつなのだ」
 「そうレうお前は誰だ」
 巨大なカプセルは急に消える。東京の夢の島の風景が戻ってきた。
 「Kよ、君はまた理解してレなレな」
 仮面の男は言う。
 「何をわかってレなレと?」
   「それじゃ、K、y一 こ はど こだ」
   仮面の男は挑戦的に言う。
   「東京、夢の島だ」
   「それじゃ今日は何日だ」
   フ九八七年九月一七日木曜日だ」
   Kはバスの中で見たスポーッ紙の日付を思い出しながら言う。
39  仮面の男は笑レころげてレる。笑レ声をたててレる。
 一君はまたそんな乖を悟Uてt疋辺力」
   「それじゃ、反対に聞く、y一こはどこだ」
    Kはやや怒りながら尋ねた。
   「よーく見てみるんだ。K」
   仮面の男は空を指さす。その夢の島から見える東京の風景、がゆらりと動く。まるで雑誌のページをめ
  くるように、東京の風景が端から消え去ってレく。
   やがて空一面の夜空。がそれは東京の夜空ではなレ。さらに地平線もなレ。
   「夜か、一体ここは」
   Kは急に不安を感じる。体が自分の体ではなレような感覚。虚体感覚と呼んだらレいような奇妙な感
  しかする。Kの立っている所の他はすべて夜空。Kはドを向く。下も夜空だ。Kと仮面の男は虚空に立
  っている。

   フ』こは君の星、地球だ」
   「そんな事はわかってレる。大地がなレではなレかJKは心細くなって叫んだ。
   「まだわかってレなレ」仮面の男は強気だ。
   「君自身が地球だ」自身たっぷりに言う。
   「何を言ってレる」
   Kは表情が見えなレ仮面の男の不思議な言葉にとまどってレる。
41
「Kよ、よーく私の顔を見てみろ」
 仮面の男がゆっくりカーニバルマスクをはずす。その下に隠された顔は。
「俺の顔だJKは腰がくだける。
「ふふ、あたりまえだ。私は君なのだ。いや待て、少し違うな」
 Kは驚きのあまり声も出てこない。同じ顔の男が言う。
「君自身の精神にある精神治癒機構の具現者が私だ」
「俺が地球。それにお前が俺自身の精神治癒機構だと」
「そうだ。私は、君クネてハ・スプローギンが自分自身の精神のバランスを保つために作りあげたバラ
ンサーだ。さて、君自身の現実の姿をもう一度見せてやろう」
 夜空の一部が消え、一つの物体が映し出される。先刻の巨大な生き物だ。
 陳の男がf宮に包まれてレるように丸くなっている。その羊水は海の水だ。まわりを囲んでレだ球形
のカプセルはやがて地球の姿に変わる。地球の中にKの体は眠っている。
 「君は地球そのものだ。そして今、君の強力な精神力で実在化された夢世界なのだ。その夢世界を破壊
するのが私なのだ。君自身の精神を、夢世界の苦悩から助けるために、君自身が作りだした夢世界の
破壊者なのだよ、私は」
 「そうなのか」
  一瞬、Kはすべてを理解した。あの新宿のカプセルホテルの目覚めから、この夢工場までのすべ
『俺は地球だったのだ』

 覚醒したKの体からはオーラが出てレだ。
彼はすべての始まりを思レ出してレだ。
「スプローギン大佐、君の計画はすべて水泡に帰した。観念したまえ」
 リポフ中尉の声はワルシ″ワ旧市街にこだましてレだ。一九八七年九月、ポ土フンドの首都ワルシ七
ワたった。
 リポフ中尉を始めとするワルシヤワ条約軍はスプローギンの家をとり囲んでいる。
 「もう逃亡は不可能だ。まわりの道路はすべて遮断されてレる」
 返事はない。
 「5分間待ってレる。5分間の間に出てぎたまえ。スプローギン大佐、さらに夢結社の諸君」
 リポフにとっては長い5分間だった。家の中はまったく動きが感じられない。リポフは不愉快そうに
吸っていたロシア製タバコを投げすて、半長靴でぎゅと踏みつけた。「時間です」
 かたわらのスワーヴェフ軍曹が言った。
 「よし、攻撃しろ」
    あたりはAKMライフルの発射光と銃声に包まれる。突入グループがドアに向かってなだれ込んだ。
    軍研究所主任、スプローギンと彼の率いる夢結社は恐るべき思想集団だった。
    戦争用に開発された幻覚剤JP三五九を軍の倉庫から盗み出し、全世界にばらまこうとしていた。
    内通者から夢結社のメンバーがスプリーギンの家にひそかに集まってレるという情報が人った。ただ
  ちに軍情報部リポフ中尉は情報部ソネ将軍に呼び出された。
   「いレかね、JP三五九という薬はこの世に存在しなレのだ」
    ソネ将軍は開ロー番こう言った。煩が心なしかひきつっていた。
   「わかりました。その薬は消去します」
   リポフも汗をかレている。
   「レレかね、始めから存在しないのだ。つレでに夢結社の奴等も始末しろ」
    つまり、リポフは彼らの処刑を命令されてレたのである。
    リポフの前に、最初に家へ突入した一群の兵士が戻ってくる。ガスyスクをはずし、リポフに敬社す
  る。
   「同志中尉、大変です、家には誰もおりません」
   「何だと、彼らはどこへ……」
   「地下通路の人口がありました。御覧レただけますか」
43  「わかった、そこへ案内しろ」
44
 リボフは摩壊してtるスフローキンの等c吽にλる,叱指i辺哨炉辺碑にデカ浚tてーそ
「ここからどうやら逃げたようです」
 兵士が告げた。
「よし、私が先に人ろう。ライトをかせ」
 ライトを持ったリポフが穴をくぐった瞬間、その兵士はにやりと笑レ、リポフの後頭部をAKMライ
フルの銃床でなぐる。リポフは気を失った。
 意識が戻ってきた。目の前はリノリュームの床だ。またずぎんと顛の奥が痛む。
「くそっ、あの兵士は夢結社の奴が化けていたのか」リポフは独りごちた。
「そうだ」声が頭の上からする。
 リポフは頭をふりながら、何とか立ちあがる。目の前にスプローギンのぼんやりした姿がある。
「スプローギン大佐」
「そうだ、リポフ君、私の話を君に聞いてほしかったんだ」
「あなた方夢結社の思想は、世界を滅ぼす事じゃなレのか」
「いやいや、我々はJP三五九によって、世界に平和を持たらすつもりだ」
「あなたのたわ事を聞く耳など持ちあわせてはレなレ」
 リポフは叫びながら、反射的に腰に手をやる。ホルスターにまたマカロフ拳銃が装着してある。リポ
   フはマカロフを引き抜き、スブローギンに向けた。
   「あなたを、国家正義の名において、ここで処刑する」
    うなりながら、リポフはマカロフのトリ″ガーをひきしぼる。銃声が何度か統く。
    リポフはあっけにとられた。スプローギソの体を銃弾が突き抜けていた。
   「驚レたかね、リポフ君、これはホログラムだよ。私の今の姿を見せてやろう」
   背後に明かりがつき、巨大なカプセルの中にスプローギンの体が横だわっていた。彼の眼は閉じられ
  ている。
   「ここはどこだ」
    リポフは見知らぬ空間に立ち、叫んでレる。
   「ワルシヤワ地下人空洞の中だ。市の地下にはりめぐらされた地下道を利用した大空洞だよ。さて、リ
  ポフ君、わざわざ君がこy一に来てもらったのはなぜだと思う」
   リポフはE酉葉につまる。つまりスプローギンの家での集会とレうのはガセネタだったのか、私をおび
  きよせるための。
   「私が欲しかったのは君の持っている情報だ」
    ホログラムの方のスプローキンがしゃべっている。
   「何だと」
45  リポフは少し考え、悲鳴をあげた。
46  一まさか『 叙の淳カら……」
   「そうだ、君の記憶から、ミサイル発射に必要なキーフートを読みとったのだよ」
   「くそっ、俺を外へ出せ」
   「無駄だ。ルビノ基地のミサイルは発射された。我々のコンピューターは、軍のミサイル発射制禦コソ
  ピューターに侵入した。もちろん、この際に君の知っていたパスワードが非常に有効だったのだ」
   フとこだ、目標は」

   「モスクワだ」
   「くそっ、なぜだ、なぜモスクワに」
   「モスクワはきっと敵陣営から発射されたミサイルだと思うたろう。自動的に、報復装置が働き、多く
  のミサイルが各地の目標に向かって発射される。もちろんその弾頭にはJP三五九が装填されてレる」
   「何んてことだ」
   リポフは両ひざをつき、頭をかかえた。
   「あなたは世界を破壊してしまった」
   「そうてはない。リポフ君、考えてみたまえ、JP三五九は強力なドラ″グだ。個々人の幻想が具体化
  され実在の世界となるのだ。人々は自らの望む世界に住めるのたよ」
   「あなたは狂っている」
   「私が狂っているかどうか、もうすぐわかる」
「あなたを処刑する」
 リポフは、Jンソールの部分へ銃弾を撃ち込もうとそのカプセルの方へ走っていく
「リポフ君、君はきっとこれからの世界が気にレるさ」
「何を言う、この犯罪者め」
 トリッカーをリポフはひきしぼろうとした。
 その瞬間、世界は白熱した。
 過去世界ぱ消滅し、幻想夢世界示現出したのである。
 世界じゅうに幻想削出剤JP三五九を装填したミサイルが行きかったのだ。
 この瞬間から夢世界が出現した。
 過去世界のすべてのひとびと示自らの夢世界に住んでレるのだ。
 K6クネコハ‥スプローキンも自らの夢世界に住んでレだ。
 今日の・夢は、スプローギンが目本の大使館に武官として着任していた時の記憶がベースになってレだ。
カプセルホテル。渋谷。夢工場とレうイベント。チバ・ポートタワー。楽しかりし日本の思い出。それ
が渾然一体となって現出したのだ。
47

 今、Kは静かに眠ってレる。心安んじられる状態なのだ。Kの心が乱れると、新たな夢世界が出現す
る。実在の世界として具体化される。その夢世界を処理してレくのがKのバランサー、Kの分身、仮面
の男なのだ。
Kは、新たな世界を生み続けながら、永レ眠りに人っている。
なにしろKはこの世界の地球そのものなのたから。


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